傀儡の恋
23
あっさりと許可が出たことを考えれば、オーブの中枢部に協力者がいると考えていいだろう。
それが何者なのか。
考えなくても想像がつく。
「厄介だね」
それはそれで、とため息をついた。
どこで誰に監視されているのかがわからない。うかつな行動を取ることは難しいと言うことだ。
だが、それは他の人間にはだろう。
今までも同じようにひと目をかいくぐってあれこれしてきたのだ。これからもできないわけはない。
そのためにも、自分がどこまで監視されているのかを把握する必要がある。
まずは、とラウは立ち上がった。そのまま玄関へと向かう。
「どちらに?」
即座に声が飛んでくる。
「少し買い物をしてくるだけだ。すぐに戻る」
「それなら、私が……」
「君ばかり動かしては、近所の者達に不審を抱かれる。見た目だけならば私の方が年下だからね」
年下の人間が年上の相手を鼻先で使ってる。あの二人はいったいどのような関係なのか。
そんな些細な疑問から不審はふくれあがっていくものだ。
「女性を甘く見るものではないよ。特に市井にいる有閑の女性はね」
彼女たちは独自のネットワークを持っている。そして、それは侮れないものだ。
「……わかりました」
不審を抱かれるのが一番怖い。
そう考えているのは自分だけではなかったようだ。いや、彼の方が余計になのだろう。渋々ながらも頷いて見せる。
「では、行ってくる」
言葉とともにラウは部屋の外に出た。その瞬間、無意識に吐息が漏れる。
「さて……まずは軽くつまめるものを眺めてくるか」
気に入ったものがあれば購入すればいい。
問題は、以前と今の味覚が同じかどうかだ。
食事のたびに微妙な違和感があると言うことは、この体にどこかずれがあるのではないか。
これが食事に関することだけならばいい。
だが、他のことにまでかかわってくるようならば厄介だ。
「しかし、今まで気づかなかったとは……管理されていたからか?」
あの場所では与えられたもの以外口に出来なかった。だから、自分の味覚の差異に気づかなかったのだろう。
だが、ここではそうではない。
自分の好みのものを口にすることが出来る。だからこそ余計なのかもしれない。
もっとも、あそこにいた者達がそれを知らないはずはないだろう。故意に注意しなかった、と考えた方がいいのではないか。
お前は死人だ。
そして、お前を生き返らせたのは自分達だ。
だから、自分達に従え。
そう言いたいのだろう。
だが、とラウは心の中で呟く。
いつまでもおとなしくしたがっていると思うのは間違いだ。いずれ足元をすくってやろう。
心の中でそう呟く。
その日を楽しみに、今はおとなしくしていよう。
何よりも、キラの様子を確認したい。
「……君を害させるわけにはいかないからね」
そう呟くと、ラウは表情を取り繕った。